2005年 10月 29日
サンダンス |
先日、仕事で会った、ある会社の社長さんが言っていた。
「毎朝、欠かさず太陽を見るんです。そうすると毎日活力をもって暮らせる」というのだ。
こういったことを言われると、すぐに新興宗教を思い浮かべる。悪い癖だ。
この7年、日本人の自殺者数は、年間3万人を超えている。数だけだとピンと来ないが、対人口比率でいくと、あの北欧各国よりも多い。ちなみに、ノルウェーの倍である。世界ランキング10位ぐらいだ。
毎朝電車が遅れるわけである。
「なんで、こんなに死にたい人が多いのか?」そう思ったとき、あの社長の言葉を、ふっ、と頭をよぎった。
そうか、日本人は太陽を見なくなったのではないだろうか?
不景気でいいことなど一つもない、と俯き加減。会社に行けば、パソコン画面をにらみ、電車で携帯、歩いて携帯、その他携帯...。いつ太陽を見るのだろう。
先に出た、北欧各国は、自殺が多いことがずいぶん前からいわれているが、「うつ病の原因の3分の1は、冬の暗さにある」という研究結果もあるという。
そうか、太陽を見ないと、人間は鬱になり、ほっとくと死にたくなる。逆をいうと、少しぐらい落ち込んでいたとしても、太陽をみることで鬱は解消されるかもしれない。
あの社長が言っていたことも一理ある、そのように私は仮説を出した。
10年以上前、私は、あるアメリカ先住民に救われたことがある。
命ではない。精神的に救われたのだ
マイアミのさらに南、キーウエストに向かう途中だった。
大切な日記帳をアクシデントで無くした。ただの日記ではない。旅での出来事を一つ一つ、時にはスクラップを貼り、コーヒーのしみや、汗...そういったすべてが詰まった大切な記録だった。
打ちひしがれて、道路わきのハイキング用テーブルに座って、出たばかりの月を見ていた。12月末とはいえ、亜熱帯である。蒸し暑い。でも私は、幽霊のように、そこにいた。
そこへ、その男は現れた。
「一緒にここに寝ていいか?」と聞く。拒否する必要も権利もない。
「もちろんだ」と答えた。
「何をしてる?」と男が聞く。正直に話す必要もなかったが、私は一部始終を話した。
その男は、マイアミあたりに住むアメリカ先住民で、キーウエストに住む友人の誕生日パーティに行く途中ということだった。男がきた付近からキーウエストまで何マイルあるのか? 相当あるはずである。そんな距離を歩いて?
私が話し終わると、男は笑った。屈託のない、高音で、よく通る声だった。
「わるいわるい、馬鹿にしてるんじゃない」そう謝ってから、男は真新しいタバコを1箱、そして使っていないマッチを私に渡す。「あげるよ」と。そして、男はある話をしてくれた。
「現代人は、おまえは何を欲する? と聞くと、モノを答える。でもそんなことは、どうだっていいことで、さして重要なことではない」
「俺たち(アメリカ先住民)は、日が昇れ活動をはじめ、そして、暮れれば活動を止め、眠りにつく」
「それが、サンダンス、というものなんだ」
そして、また、高く笑うと、「寝る前にタバコを一本くれ」という。「これなあなたのタバコだから返すよ」といっても、決して受け取らなかった。
次の日、私が暑さに目がさめたときには、男の姿はなかった。
サンダンス、のちに少し調べてみたのだが、これは確かにインディアン語らしい。
あの「サンダンス・フィルム・フェスティバル」のサンダンスもここからきている。
「太陽踊りという感謝祭」ということだが、詳しいことは調べていない。
太陽に感謝する、それが、インディアンたちの生きる源泉なのだろう。
「こまかいことに縛られるな!」
「太陽と共に生きろ!」
私には、あのときの男の言葉は、そう届いたのだ。
だいぶ元気を取り戻した私は、次の日、キーウエストで、ある作家が住んだ家を訪れた。
思った以上に普通のたたずまいだったので、すこし寂しくなった。
作家の名は、アーネスト・ヘミングウェイ。
作家活動における中期時代に、キーウエストに住み、キューバにて晩年を過ごし、好きなカジキ釣りに明け暮れた。そして、ノーベル文学賞受賞の6年後、1961年7月2日、祖国アメリカはアイダホ州ケチャムにて猟銃自殺した。
彼は、何年も不眠症に悩まされていたらしい。
夜が長い。
太陽を見なくなると人間は自殺をする。
「毎朝、欠かさず太陽を見るんです。そうすると毎日活力をもって暮らせる」というのだ。
こういったことを言われると、すぐに新興宗教を思い浮かべる。悪い癖だ。
この7年、日本人の自殺者数は、年間3万人を超えている。数だけだとピンと来ないが、対人口比率でいくと、あの北欧各国よりも多い。ちなみに、ノルウェーの倍である。世界ランキング10位ぐらいだ。
毎朝電車が遅れるわけである。
「なんで、こんなに死にたい人が多いのか?」そう思ったとき、あの社長の言葉を、ふっ、と頭をよぎった。
そうか、日本人は太陽を見なくなったのではないだろうか?
不景気でいいことなど一つもない、と俯き加減。会社に行けば、パソコン画面をにらみ、電車で携帯、歩いて携帯、その他携帯...。いつ太陽を見るのだろう。
先に出た、北欧各国は、自殺が多いことがずいぶん前からいわれているが、「うつ病の原因の3分の1は、冬の暗さにある」という研究結果もあるという。
そうか、太陽を見ないと、人間は鬱になり、ほっとくと死にたくなる。逆をいうと、少しぐらい落ち込んでいたとしても、太陽をみることで鬱は解消されるかもしれない。
あの社長が言っていたことも一理ある、そのように私は仮説を出した。
10年以上前、私は、あるアメリカ先住民に救われたことがある。
命ではない。精神的に救われたのだ
マイアミのさらに南、キーウエストに向かう途中だった。
大切な日記帳をアクシデントで無くした。ただの日記ではない。旅での出来事を一つ一つ、時にはスクラップを貼り、コーヒーのしみや、汗...そういったすべてが詰まった大切な記録だった。
打ちひしがれて、道路わきのハイキング用テーブルに座って、出たばかりの月を見ていた。12月末とはいえ、亜熱帯である。蒸し暑い。でも私は、幽霊のように、そこにいた。
そこへ、その男は現れた。
「一緒にここに寝ていいか?」と聞く。拒否する必要も権利もない。
「もちろんだ」と答えた。
「何をしてる?」と男が聞く。正直に話す必要もなかったが、私は一部始終を話した。
その男は、マイアミあたりに住むアメリカ先住民で、キーウエストに住む友人の誕生日パーティに行く途中ということだった。男がきた付近からキーウエストまで何マイルあるのか? 相当あるはずである。そんな距離を歩いて?
私が話し終わると、男は笑った。屈託のない、高音で、よく通る声だった。
「わるいわるい、馬鹿にしてるんじゃない」そう謝ってから、男は真新しいタバコを1箱、そして使っていないマッチを私に渡す。「あげるよ」と。そして、男はある話をしてくれた。
「現代人は、おまえは何を欲する? と聞くと、モノを答える。でもそんなことは、どうだっていいことで、さして重要なことではない」
「俺たち(アメリカ先住民)は、日が昇れ活動をはじめ、そして、暮れれば活動を止め、眠りにつく」
「それが、サンダンス、というものなんだ」
そして、また、高く笑うと、「寝る前にタバコを一本くれ」という。「これなあなたのタバコだから返すよ」といっても、決して受け取らなかった。
次の日、私が暑さに目がさめたときには、男の姿はなかった。
サンダンス、のちに少し調べてみたのだが、これは確かにインディアン語らしい。
あの「サンダンス・フィルム・フェスティバル」のサンダンスもここからきている。
「太陽踊りという感謝祭」ということだが、詳しいことは調べていない。
太陽に感謝する、それが、インディアンたちの生きる源泉なのだろう。
「こまかいことに縛られるな!」
「太陽と共に生きろ!」
私には、あのときの男の言葉は、そう届いたのだ。
だいぶ元気を取り戻した私は、次の日、キーウエストで、ある作家が住んだ家を訪れた。
思った以上に普通のたたずまいだったので、すこし寂しくなった。
作家の名は、アーネスト・ヘミングウェイ。
作家活動における中期時代に、キーウエストに住み、キューバにて晩年を過ごし、好きなカジキ釣りに明け暮れた。そして、ノーベル文学賞受賞の6年後、1961年7月2日、祖国アメリカはアイダホ州ケチャムにて猟銃自殺した。
彼は、何年も不眠症に悩まされていたらしい。
夜が長い。
太陽を見なくなると人間は自殺をする。
by times_gone
| 2005-10-29 21:35
| 人間の欲求